龍神ー熱田神社に描かれた
4月5日2009年

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「Descend」降竜



「Ascend」昇竜





龍は、蛇の持つ特性(脱皮による不死性等)が神格化されて、世界各地で散見され、中国の新石器遺跡でも、うねった龍神らしき像が発掘されています。その姿は、次第にトカゲ、ワニなど爬虫類を モデルとして形成され、神獣として崇められ、恐れられていったようです。時代が進むにつれて、細部まで規定がなされていきます。そして中国では、宋代に、今日に続く姿が完成されたと思われます。日本で私たちが見かける龍神像は、南宋の画家や江戸期の狩野探幽を手本として作られているようです。

 画家は、完成された手本をそのまま真似るのでなく、自分なりに、直感を手がかりに龍神の本質を探りながら、描き起こそうと思いました。龍神は、頭頂ーラクダ、耳ーウシ、目ーウサギ、角ーシカ、手足ーワシ、掌ートラ、首(全身)ーヘビ、腹ーミズチ(蛟)、鱗ーコイと、九頭の動物に似るといわれます。一応は、この規定を踏まえながらも、思い切って置き変えることもしました。

 本殿に向かって左手が降龍です。天から、荒ぶる神龍が、逆さ虹(瑞兆)を伴って下界に臨み降りてくる(空即是色)。肉食獣をベースにした、怒りに似た形相。

 右手が昇龍です。荒波に浮き沈みした末に、水の神でもある龍神は、白虹(干天の凶兆)をも無化・包容しながら天に帰っていく(色即是空)。草食動物をベースにして、老成した優しげな表情。鱗が所々、剥がれ落ちています。
 白玉は、森羅万象の大本の生命とすれば、赤玉は、個々人のうちに宿る生命の象徴と言えましょう。

(実は、期限が近づく頃になっても、昇龍も白玉を手にしていました。ところが、そこにどうしても胎児を描きたくなりました。夢にまで出ます。そこで白濁の羊水に包まれた胎児を描き入れました。そこで一安心。ところが、数日立つと、何かもの足りません。また夢を見ました。赤玉でした。さすがに、赤はどぎつ過ぎるだろう、と躊躇しました。が、三日後に赤く塗りました。そして完成したと感じました。数日後、和歌の本を開いていて、古事記の豊玉姫の白 玉・赤玉の歌に出会いました。

 海の神の娘豊玉姫が出産するとき、どうか覗いてくれるなと懇願されたにもかかわらず、夫は覗いてしまいます。そこでは、ワニがのたうち回っていた。それを知った姫は、赤玉(赤児)を残して海に帰っていった。)        山田俊一